ANDY WARHOL x CHEFS 五感の芸術

November 10, 2022 Photo Masahiro Goda Text Text Izumi Shibata
November 4, 2022 Last modified

料理は瞬間の芸術だ。その記憶は何十年も我々の五感の中に残り続ける。その瞬間に全エネルギーを注ぐ五人の料理人が、ポップアートの天才アンディ・ウォーホルの世界に挑んだ。

茶禅華
「ウォーホルの孔雀のドローイングを見たとき、茄子の皮の黒紫と果肉の白が描く線が頭に浮かびました」と川田さん。わずかなズレもなく美しく並べられた茄子は、まさに孔雀が羽を広げた場面のよう。

茶禅華 川田智也

「今回『ウォーホルをテーマにした料理』と聞いて、2羽の孔雀(くじゃく)の絵をパッと思い浮かべました」と語る川田智也さん。その絵は、羽を閉じた2羽の孔雀が、背中合わせで左右対称に描かれているもの。右側の孔雀は黒インクでのドローイングで、左側の孔雀はドローイングの上に金箔が施されている。生き生きとした線の運び、羽の細かな表現、そしてドローイングのストイックさと金箔の華やかさというコントラストも印象的だ。

「この孔雀が羽を開いたらどうなるだろう? それを料理で表現したかったのです」。結果生まれたのが、茄子の薄切りを丸く大皿に並べてさっと蒸した料理。大きな皿に整然と茄子が並ぶ様はまさに圧巻だ。仕上げに金箔入りの生姜ソースを半分にかけるが、これは2羽の孔雀のうち1羽のみを金箔で飾ったウォーホルの絵の踏襲。名付けて「秋茄子の孔雀仕立て黄金生姜ソース」である。
 
なおこの絵が描かれたのは1957年ごろ。前年にウォーホルは日本から中国、東南アジア、インド、エジプト、ローマをまわる旅をした。ウォーホルの孔雀の絵を見て、川田さんはこの旅にも思いをはせたという。またこの旅路の半分は仏教文化の地であることから、仏教の明王の一つ、孔雀明王も連想した。

「インドでは孔雀は、コブラをも食べて毒を制することから、無病息災の意味を込められるようになったそうです。孔雀明王の起源もそこにあります」。仏教とともに孔雀明王もインドから中国、中国から日本に伝わった。

そしてその土地土地で受け入れられ、多くの人を癒やしてきた。
 
また「アジアの旅は、ウォーホルの創作に多大な影響を与えたはず。孔雀の絵に見られる金箔の使用も、アジアの金色の寺院から発想を得たのではないかと想像します。左右対称の構図も、京都の平等院鳳凰堂や北京の紫禁城の感覚を彷彿とさせます」

茶禅華 料理
茄子の皮に入れた細かい包丁目は食べやすさを配慮したものだが、羽を思わせる繊細な見た目を作り出す。並べた茄子は蒸籠で1分間蒸し、1㎜にも満たない薄さの茄子を絶妙に加熱。「このビジュアルも味わいも、ハリがあり力強い秋茄子だからできました」と川田さん。仕上げにかけるのは金箔入りの生姜のソースで、清湯(チンタン)に塩、酢、生姜を加えて作る。「姜汁茄子」という、加熱した茄子に生姜入りのタレを合わせる伝統料理を応用した。

伝播した土地に順応した孔雀明王や、異国の文化を自分のセンスで表現したウォーホルは、中国の食文化を日本の感性で表現する「和魂漢才」―川田さんの信念と重なる。「文化が伝わり、溶け込むことで、より豊かなものが生まれる。そうしたあり方に私は憧れ、共感するのです」

ちなみにウォーホルがこの作品を描いたのは28〜29歳の頃。「芸術家として一番多感な時期です。ここでもまた、自分に引き合わせて考えてしまう(笑)」と川田さん。その年頃の川田さんは、中国料理を10年間学び、日本料理に移る時期だったという。「まさに異文化に飛び込む覚悟を決めたとき。なのでウォーホルはその年齢でどんな感性、感覚だったか。この旅行の後に彼は芸術家として飛躍しますが、やはり何か覚悟を固めたのだろうか……なんて思うのです」

「アートは好きですね。人の想像力を、時空を超えて広げてくれます。と同時に、自分の内面を見つめさせます」。川田さんは今回、ウォーホルの孔雀の絵を出発点にまさにそのような体験をした。その結果生まれた料理の迫力からも、氏の深い思いを感じ取ることができる。

川田智也さん

川田智也 かわだ・ともや
1982年、栃木県生まれ。「麻布長江」で10年間にわたり四川料理を修業した後、「日本料理 龍吟」に入門。同台湾店である「祥雲龍吟」の立ち上げから参加し、副料理長を務める。帰国後、2017年2月に「茶禅華」をオープン。『ミシュランガイド東京 2022』では三つ星の評価を得ている。

●茶禅華
東京都港区南麻布4-7-5
TEL050-3188-8819(予約専用番号) sazenka.com

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