不朽の価値 第7回 “透過と反射”、建築と腕時計とをつなぐ思考

まつあみ靖

November 14, 2022
October 20, 2022 Last modified

これまでにも日本人クリエーターとのコラボモデルを展開してきたブルガリの「オクト フィニッシモ」。建築家・妹島和世氏が手掛けた最新バージョンが発売。

オクト フィニッシモ 妹島和世 限定モデル
ミラー効果と透明性、見えるものと見えないものとのコントラストに着目した、妹島和世氏ならではのビジョンを具現化。「オクト フィニッシモ 妹島和世 限定モデル」マイクロローター式自動巻き、ケース径40㎜、SSケース╳SSブレスレット、10気圧防水、限定360本。11月発売予定、1,771,000円。

妹島和世氏が手掛ける「オクト」最新モデル

今やブルガリを代表するタイムピースコレクションに成長した「オクト」が発表されたのは2012年のことだ。この10年間に「オクト」から八つもの世界最薄記録モデルを輩出し認知を拡大。また、アーティストやクリエイターとのコラボレーションモデルも、その世界観を広げた。これまで多くの日本人がコラボプロジェクトに起用されてきた。インダストリアルデザイナー・奥山清行氏、日本画家・千住博氏、建築家・安藤忠雄氏、現代美術家・宮島達夫氏―。そして今回、建築家・妹島和世氏に白羽の矢が立った。
 
妹島氏は、国内外で数々の賞に輝く、日本を代表する建築家。その作風は、大胆な造形でありつつ、周囲の環境との一体化も意識し、ガラスを用いたファサードに象徴される、オプンで透明感があり、内と外とがつながるような空間を特徴とする。
 
そんな妹島氏がデザインを手掛けた「オクト フィニッシモ 妹島和世限定モデル」は、既存の「オクト フィニッシモ」と大きく趣を異にする。「オクト」といえば、マットな質感の印象があるが、この時計はフルポリッシュ仕上げ。まるで鏡のようにきらめき、周囲を映す。

アワーマーカーを排したサファイアクリスタル製の文字盤も強いミラー効果を放つ。サファイア風防の裏側には繊細なドットパターンが施され、これによってポリッシュ仕上げの時分針は見る角度により姿を消したり、時刻を浮かび上がらせたりする。この時計に、妹島氏はどんな発想や思いを込めたのか? インタビューの機会を得た。

透過と反射を重ねて

「初めて『オクト フィニッシモ』を目にしたとき、薄くシャープでキレイな造形だと感じました。八角形も力強さがある。これをもう少し柔らかくしたら女性もつけやすいのでは、と考えました。風防に細かいドットの処理をしていますが、光の透過と反射によって、正面から見たとき文字盤の八角形は輪郭が曖昧になり、丸の中に八角形が浮かんでいるように見える。針も角度によってバシッと見えるときもあれば、フワッと消えるようなときもある。さらに全体を鏡面にして、着けている時に周囲が映り込むようにしました」
 
この時計のコンセプトに通じる建築として、1870年創業のパリの老舗百貨店サマリテーヌのリヴォリ館のガラスのファサードを挙げた。サマリテーヌは、ルーブル美術館のやや東、シテ島に続くポンヌフ橋の北に位置し、目抜き通りのリヴォリ通りに面して立つ。2001年にLVMHグループが買収し、時間をかけてリノベーションと隣接エリアの再開発を進め、21年6月にリニューアルオープンにこぎ着けた。妹島氏と西沢立衛氏とのユニットSANAAとして手掛けた同店リヴォリ館のファサードは、大胆な波打つガラスによって覆われ、パリの街並みを映し出す。

キャリバーBVL138
妹島氏のサインが入ったサファイアケースバックを通して、プラチナマイクロローターを備えたキャリバーBVL138の美しい仕上げを見ることができる。

建築と時計に共通するコンセプトとは

「このガラスのファサードには小さなドット処理がしてあります。全体を反射面にするのではなく、ドットを用いて反射させると、周囲の街並みが柔らかく映りながら、ガラスを通して歴史ある昔のファサードも透けて見える。透過と反射の関係性をファサード上で作ってオーバーラップさせています。この時計も、コンセプトは同じです。風防のドットは周辺に向かうにつれ密度が濃くなり、針の中心部が最もよく見える。角度によって針だけが浮かんで見えたり、見えなくなったり。全体を鏡面にしたことで周囲の風景が映り、青空の中に針が動いていたり、自然の中ではグリーンの中で針が浮かんだり消えたりもする」
 
スケール感が大きく異なる建築と腕時計。しかし共通のコンセプトが実現されているのが興味深い。

「建築の場合、大きなものでも近づきやすく、人の体と近い関係を持てるようなものにしたいという思いがあります。そこを使う人を想定するというよりは、いろんな人がその人なりに近づいて、使って、好きになってもらえるような。腕時計は、そもそも小さいから近づきやすいし、それでいて周囲の環境をどこまでも映して、大きさや広がりを感じることができればいいなと。時計は単なる物体ではなく、抽象的な時間というものを一瞬にして浮かび上がらせてくれますから、広がりや奥行と重なって見えるようにと考えました。こういう形で抽象化すると、フォーマルなパーティーでも、カジュアルな場面でも、自然の中でも、使う人がいる環境を映しながらで、そのときどきで違う感覚で着けられるのではないでしょうか」
 
妹島氏ならではの世界観が実現されたタイムピース、その感覚を確かめてみる価値はありそうだ。

妹島和世 建築家

妹島和世 建築家
茨城県生まれ。1981年日本女子大学大学院修了後、伊藤豊雄建築設計事務所勤務を経て、87年妹島和世建築設計事務所を設立。95年西沢立衛とのユニットSANAAを設立。2004年ベネチアビエンナーレ国際建築展金獅子賞、2010年建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞、同年フランス芸術文化勲章オフィシエ、16年紫綬褒章、22年高松宮殿下記念世界文化賞ほか数々の賞に輝く。2010年には、第12回ベネチアビエンナーレ国際建築展のディレクターを、日本人として、また女性として初めて務めるなど、国内外で高い評価を得ている。2022年東京都庭園美術館館にも就任。

まつあみ靖 まつあみ・やすし
1963年、島根県生まれ。87年、集英社入社。週刊プレイボーイ、PLAYBOY日本版編集部を経て、92年よりフリーに。時計、ファッション、音楽、インタビューなどの記事に携わる一方、音楽活動も展開中。著者に『ウォッチコンシェルジュ・メゾンガイド』
(小学館)、『スーツが100ドルで売れる理由』(中経出版)ほか。

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