時計の未来を刻む矜持

パテック フィリップ

May 6, 2022 Photo Masahiro Goda Text Yasushi Matsuami

オンラインによる新たなタイムピース発表のプラットフォームとなった「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ2021」。初参加したパテック フィリップは、ニューノーマル時代を見据えながら、伝統性を重視する一方、先進的な技術にも果敢に挑み、時計愛好家や関係者を感嘆させた。全てのモデルがハイライトというべき、完成度の高い新作群に、パテック フィリップの充実の“時”を見る。

パテック フィリップの威信を示す一本

インライン永久カレンダー 5236P
12時位置の曜日、日付、月のインライン表示に加え、6時位置にスモールセコンドと高精度ムーンフェイズ、4時位置に閏年表示、8時位置に昼夜表示を備える。外周に向かって濃くなるブラック・グラデーションのブルー文字盤には、縦方向の繊細な筋目加工も施されている。「インライン永久カレンダー 5236P」自動巻き、直径41.3㎜、プラチナケース×アリゲーターストラップ、3気圧防水、14,949,000円。

曜日、日付、月が大型表示窓に一列に並ぶ極めてユニークなインライン表示の永久カレンダー搭載モデル「5236P」が発表された。

パテック フィリップは、1925年に永久カレンダー搭載腕時計を誕生させて以来、指針表示や窓表示などのさまざまなデザインを生み出してきたが、インライン表示の永久カレンダー搭載腕時計は、これが初である。懐中時計としては72年にアメリカ市場向けに、インライン表示の永久カレンダー搭載モデルが製作されたことがあり、それがこの「5236P」の着想源となった。

12時位置の細長い大型表示窓には、左から曜日、日付、月が並び、端正で見やすい。が、これを実現するためには、さまざまな技術的課題をクリアする必要があった。単一の日付表示ディスクに31日分の数字を記載したのでは十分な視認性を確保できないため、10の位と1の位を別々のディスクとし、さらに曜日、月の計4枚のディスクを同一平面上に配置するためダブル・ボールベアリング機構を開発。

また日付表示の2枚のディスクを完璧に同期させるためのダブル・ジャンプ防止機構や、31日から翌月1日への移行を確実にする日付プログラム車など、三つの特許取得機構が開発された。このインライン表示だけで、従来の永久カレンダー表示より118個も多くの部品が追加されている。

複雑性を極めつつ、信頼性を確保し、外装も押しも押されもしない堂々たる風格。パテック フィリップの威信を示す一本である。

パテックフィリップ
2011年にレギュレーター・タイプの年次カレンダーモデル「5235/50」用に開発されたキャリバーをベースに、インライン表示永久カレンダー機構を加えたキャリバー31-260 PS QLを搭載。比重が大きく、巻き上げ効率の高いプラチナ製マイクロローターを採用。チューンアップを施すことでゼンマイのトルクを20%向上させ、約48時間のパワーリザーブを有する。

パテック フィリップを象徴する一つ「カラトラバ」

微細なピラミッド型のモチーフが連なるクルー・ド・パリ装飾をベゼルに施した、「カラトラバ」は、パテック フィリップを象徴する一つといっていい。

カラトラバ
(上)シックなチャコールグレー文字盤を採用。縦サテン仕上げをベースに、繊細な同心円模様のスモールセコンドサークルとの絶妙のコントラストが味わい深い。「カラトラバ 6119G」手巻き、直径39㎜、WGケース×アリゲーターストラップ、3気圧防水、3,399,000円。(下)ピュアで洗練されたグレイン仕上げのシルバー文字盤を採用。18Kローズゴールド製のインデックスや針とのコンビネーションも優美。「カラトラバ6119R」手巻き、直径39㎜、RGケース×アリゲーターストラップ、3気圧防水、3,399,000円。

1932年に「カラトラバ96」が誕生した2年後の34年には、このベゼルを備えた「カラトラバ96D」が登場。そのDNAは、85年に登場し20年以上にわたって製作された伝説的な「3919」、そのリニューアル版というべき2006年発表の「5119」などへと、脈々と受け継がれていった。

実はクルー・ド・パリ装飾のモデルは一部の限定モデルを除いて19年以降、製作されていなかった。今回「カラトラバ6119」となってカムバックしたことを歓迎したい。わずかに大きくなった直径39㎜のRGケースにシルバー文字盤を配した「6119R」と、WGケースにチャコールグレー文字盤を備えた「6119G」の2バージョンが用意された。

ともにオビュ(弾丸)型の植字インデックスとドフィーヌ型時分針、またカーブしたラグを採用し、往年の「カラトラバ96D」、それに先立つ「96」を彷彿させる。

手巻きキャリバー30-255 PS
新開発の手巻きキャリバー30-255 PSには、ロングパワーリザーブよりも、安定した強いトルクを得ることを眼目として、ツインバレル方式が採用された。厳格な時計製作の伝統にのっとって仕上げられた機能美をサファイヤクリスタル・バックから心ゆくまで鑑賞したい。

搭載するのは、新開発の薄型手巻きキャリバー30-255 PSである。安定した強いトルクを生み出すために2個の香箱を備え、65時間のパワーリザーブが実現されている。将来を担う手巻きのベースキャリバーとしても、期待が大きい。

伝統的な美学と先進的なパフォーマンスが統合された新生カラトラバの誕生を祝福したい。

尽きることのない「ノーチラス」の魅力

ノーチラス
(左)通常の時針でローカルタイム、スケルトン時針でホームタイムを示す、パテック フィリップ独自のデュアルタイム機構を搭載。ゴールドならではのズシリとした装着感にプレステージ感が漂う。「ノーチラス・トラベルタイム・クロノグラフ5990/ 1」自動巻き、直径40. 5㎜(10- 4時方向)、RGケース×RGブレスレット、12気圧防水、12,232,000円。(右)大きな話題となったオリーブグリーン・ソレイユ文字盤の「ノーチラス」。抑制の利いた深みのあるグリーンに引き込まれる。「ノーチラス5711/1A」自動巻き、直径40㎜(10-4時方向)、SSケース×SSブレスレット、12気圧防水、4,015,000円。

1976年のデビューから45年を経ても「ノーチラス」の人気は衰えを知らぬどころか、さらなる熱狂を呼んでいる。ウォッチズ&ワンダーズでは2021年が現行スチールモデル「5711/1A-010」の生産最終年になるとのアナウンスに衝撃が走ったが、オリーブグリーン・ソレイユ文字盤の「5711/1A-014」の発表は、それを凌駕するインパクトがあった。

水平エンボス模様に、放射状に光が広がるソレイユ仕上げを施した文字盤は、「ノーチラス」を特徴づけるものだが、オリーブグリーンが採用されたのは初めてのこと。ケースに反射した光と調和するエレガントな色調は、発表と同時に多くの愛好家を魅了してしまった。

また、コンプリケーテッド・ウォッチの一角を占める「ノーチラス・トラベルタイム・クロノグラフ」のニューバージョンも発表された。二つの時針によるデュアル・タイムゾーン表示、フライバック・クロノグラフ、12時位置のポインターデイト、ローカルタイムとホームタイムの昼夜表示などの複雑機構はそのままに、ローズゴールド製ケース&ブレスレット仕様となり、ブルー・ソレイユ文字盤を備た。スポーティーなラグジュアリー感が、一層際立つ仕上がりだ。

このほか「ノーチラス」としては、オリーブグリーン・ソレイユ文字盤のスチール仕様にバゲットカット・ダイヤモンドをセットしたバージョンや、婦人用ハイジュエリーモデルも発表された。「ノーチラス」の魅力は、尽きることがないかのようである。

洗練された魅力にあふれるモデル

「カラトラバ4997/200」「年次カレンダー4947/1A」
(左)クラフツマンシップを凝らした文字盤の女性用カラトラバ。ベゼルにブリリアントカット・ピュア・トップウェッセルトン・ダイヤモンド76個( 約0.52ct)をセット。「カラトラバ4997/200」自動巻き、直径35㎜、WGケース×カーフスキンストラップ、3気圧防水、4, 213, 000円。(右)2時位置に月、10時位置に曜日、6時位置の小窓に日付、その上に高精度ムーンフェイズをレイアウト。「年次カレンダー4947/1A」自動巻き、直径38 ㎜、SSケース×SSブレスレット、3気圧防水、5,511,000円。

1年に1度、3月1日にのみ日付修正すればよい年次カレンダーは、パテック フィリップが1996年に特許を取得して以来、ブランドを代表する機構となり、さまざまなタイプが発表されてきた。が、今回べールを脱いだ「4947/1A」は、ステンレススチール製のラウンド型カラトラバ・タイプという、かつてない仕様のモデルとなっている。直径38㎜のケースに、全面ポリッシュ仕上げされたブレスレットをセットし、ブルーの文字盤には、異なる太さの縦糸と横糸で織られた紬風の絹布、山東絹をモチーフとする装飾が施された。性別を問わず使いたい洗練された魅力にあふれたモデルである。

一方で、女性的なエレガンスを象徴するカラトラバ「4997/200」は、2010年に登場し、20年に生産終了となった「カラトラバ4897」の後継というべきモデルである。ギョーシェ装飾のラック塗装文字盤は踏襲しつつ、ケース径を2㎜大きい35㎜とし、旧モデルの手巻きキャリバーに替えて、超薄型のマイクロローター式自動巻きキャリバー240が搭載された。

文字盤は、微細な放射状の波形模様を施した上から、透明なミッドナイトブルーのラック塗装を何層にも施して完成する。クラフツマンシップの粋を凝らした、デリケートで奥行きのある表情は見飽きることがない。

ここまで紹介してきた全ての新作が、パテック フィリップのクリエーションが今、充実の時を迎えていることを伝えている。

●パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター
TEL03-3255-8109

※『Nile’s NILE』2021年6月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

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