妥協なき時計製作が 語りかけるもの

April 25, 2022 Photo Takehiro Hiramatsu(digni) Text Yasushi Hiramatsu

自身の納得できるウオッチメーキングを目指し、2000年に一人の時計師に立ち戻ったダニエル・ロート氏。彼が創り出す時計には、時計史へのリスペクト、卓越した技術、そして何よりも真摯な情熱が詰まっている。妥協なき腕時計だけが持つ素晴らしき世界を、ジャン・ダニエル・ニコラの時計に見た。

ジャン・ダニエル・ニコラ

ジャン・ダニエル・ニコラ「2ミニッツ トゥールビヨン」
ジャン・ダニエル・ニコラ「2ミニッツ トゥールビヨン」
2分間で1回転する独自のトゥールビヨンを搭載。プラチナ針によるパワーリザーブ表示も備る。手巻き。プラチナケース。ケースサイズ42×32×11㎜。アリゲーターストラップ。¥28,080,000(税込)

タイムピースに関心のある方なら、ダニエル・ロートという名前を、現代における最高の時計師のひとりとして、認識されているに違いない。偉大なるブレゲの再来という評価もあるが、それは決して誇張ではない。1970年代、パリのハイジュエラーであるショーメが、ブレゲ再興に乗り出した際、その中心的な時計師として活躍したのがロート氏だ。

64年にオーデマ ピゲに入社し、超薄型ムーブメント用の微細なパーツの研磨や調整に従事しながら、基本的な技術の研鑽(けんさん)を積んだロート氏は、真摯な姿勢を買われブレゲ社に招かれる。当初、複雑機構に対する知識は持ち合わせていなかったが、時計学校で複雑機構を学び直す一方、ブレゲが残した資料と“対話”しながら知識と技術を磨き、永久カレンダーやトゥールビヨンを現代によみがえらせたのである。

  • ミクロン単位の精度が要求される微細なパーツも手作業で仕上げていく。 ミクロン単位の精度が要求される微細なパーツも手作業で仕上げていく。
    ミクロン単位の精度が要求される微細なパーツも手作業で仕上げていく。
  • 自身の工房で、19世紀から伝わる道具を用いて時計製作に取り組むロート氏。 自身の工房で、19世紀から伝わる道具を用いて時計製作に取り組むロート氏。
    自身の工房で、19世紀から伝わる道具を用いて時計製作に取り組むロート氏。
  • 6時位置の開口部に、2分間で1周する独自開発のトゥールビヨンを搭載。 6時位置の開口部に、2分間で1周する独自開発のトゥールビヨンを搭載。
    6時位置の開口部に、2分間で1周する独自開発のトゥールビヨンを搭載。
  • 通常のコート・ド・ジュネーブとは異なる、繊細な筋目仕上げが味わい深い。 通常のコート・ド・ジュネーブとは異なる、繊細な筋目仕上げが味わい深い。
    通常のコート・ド・ジュネーブとは異なる、繊細な筋目仕上げが味わい深い。
  • ミクロン単位の精度が要求される微細なパーツも手作業で仕上げていく。
  • 自身の工房で、19世紀から伝わる道具を用いて時計製作に取り組むロート氏。
  • 6時位置の開口部に、2分間で1周する独自開発のトゥールビヨンを搭載。
  • 通常のコート・ド・ジュネーブとは異なる、繊細な筋目仕上げが味わい深い。

88年には自身の名を冠した会社を設立。アイコニックなダブルオーバルケースに数々の複雑機構を搭載したモデルを発表し称賛されるも、2000年に会社を離れる。理由は、一人の時計師に戻って納得のいく時計作りに専念するためだった。

こうして、自身と息子と妻の名を冠したジャン・ダニエル・ニコラがスタートする。19世紀の時計師の技法を踏襲し、数ミクロンの誤差も許されない切削や研磨を手作業で行うほか、すべての鋼に焼き入れ、焼き戻しを施すなど、気の遠くなるような手間と時間をかけ、ロート氏は自身の時計に向き合っている。

ここから誕生したのが「2ミニッツ トゥールビヨン」である。バイオリンをモチーフとするケースは、複雑な曲線を描き、優雅そのもの。2分間で1回転するトゥールビヨンは、機構的な非凡さに加え、細部にまでこだわり抜いた仕上げに目を奪われる。妥協なき時計製造への情熱と技術、そしてロート氏を支える家族愛。腕時計に、かくも豊かな世界が息づいていることを、その手に取って確かめてもらいたい。

●シェルマン銀座 TEL03-5568-1234

※『Nile’s NILE』2015年9月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

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