身に着けるアート ボヴェ

The Art of Bovet

April 18, 2022 Text Yasushi Matsuami

身に着けるアート――ボヴェのオーナーであるパスカル・ラフィ氏は、自身のメゾンのタイムピースを、こう呼ぶ。ハイレベルの伝統技法の数々、複雑機構やヒゲゼンマイも自社生産可能なマニュファクチュール体制、革新的なアプローチ、希少性の高い本物の価値。その歴史をたどりながら、ボヴェの芸術性を検証する。

シャトー・ドゥ・モティエ
緑豊かなトラヴェール渓谷にある、ボヴェとつながりの深いシャトー・ドゥ・モティエ。2006年に買収し、ここに本社機能とアトリエが設置された。

スイスでも十指に入る歴史を誇るボヴェ

レマン湖畔から北へ約40㎞、フランスと国境を接するジュラ山地に位置するトラヴェール渓谷の小村、フルリエ。ここがスイス屈指のウォッチ・メゾン、ボヴェの故郷である。

ボヴェ社が設立されたのは1822年。スイスでも十指に入る歴史を誇る。創業者のエドアール・ボヴェがロンドンに赴き、海外へと販路を広げる会社を立ち上げたのがこの年だが、実はボヴェ・ファミリーによる時計製造の歴史は、さらにさかのぼることができる。

1814年当時、すでにボヴェは高温焼成によるグランフーエナメルや、文字盤に繊細な細密画を施す技術、またフルリエ独特のフルリザン彫刻や繊細なジェム・セッティング技術を手にし、これらを駆使した優美なタイムピースを製作していたという記録が残されている。

1855年、パリ万博でゴールドメダルの栄誉に輝く

1818年には、こうしたタイムピースを清王朝時代の中国に紹介する機会を得て、四つのポケットウォッチが収集家に販売された。現在の価値に換算すると約1億円もの値がついたという。以降、中国において、ボヴェは高級時計の代名詞となっていく。清王朝の皇帝も、贅を尽くしたペアのポケットウォッチをボヴェに発注している。このタイムピースは、1855年のパリ万博でゴールドメダルの栄誉に輝いた。

ロンドンの大英博物館、台北の故宮博物院、ジュネーブのパテック フィリップ・ミュージアム等に、往時の逸品が収蔵されていることも、その価値の高さを証明している。

アマデオ フルリエ 43 ヴィルトゥオーソⅤ
ギョーシェ彫りを施した上に、半透明のラッカーを塗布し、研磨して仕上げられるブルーの文字盤が神秘的なまでの美しさ。ジャンピングアワーとレトログラードミニッツ機構を備え、裏面にも小型の文字盤、秒針、パワーリザーブ表示を搭載したダブルフェース仕様。アマデオ フルリエ 43 ヴィルトゥオーソⅤ 手巻き、ケース径43.5㎜、RGケース×アリゲーターストラップ、9,126,000円。

懐中時計を腕時計化したようなアイコニックなデザイン

1960年代後半、休眠状態にあったボヴェだったが、97年に復興第一作がバーゼルで発表される。この新生ボヴェを注視していたのが、現オーナーのパスカル・ラフィ氏だった。1963年レバノン生まれの彼は、時計のコレクターであった祖父の影響で高級時計の世界に目覚め、製薬関連のビジネスでの成功を受け、99年ごろからボヴェへの投資を開始。2001年にはオーナーとなり、その情熱と美意識を、ボヴェのタイムピースに反映させていく。

12時位置にリュウズを配し、懐中時計を腕時計化したようなアイコニックなデザインが注目を集めたのはもちろん、グランフーエナメル、細密画、ハンドエングレービングによるギョーシェやフルリザン彫り、ジュエリーセッティングなどの伝統的な技術の復活・発展を推進。

さらに、製造部門の垂直統合も進め、高度な技術力を要するトゥールビヨンやヒゲゼンマイまでも自社内で生産可能な、スイスでも希有なマニュファクチュール体制を確立していく。

2006年には、フルリエに程近い、トラヴェール渓谷にたたずむシャトー・ドゥ・モティエを買収。14世紀にヌーシャテル伯爵のロドルフ4世によって創建され、1835年から1957年までボヴェ創業家が所有していた縁の深いこの歴史的建造物の内部をリノベーションし、本社機能とアトリエを備えた旗艦的施設に生まれ変わらせた。エナメル、ハンドエングレーブ、細密画などの伝統技法のワークショップも、ここに設けられている。

  • アマデオ フルリエ 44 ヴィルトゥオーソVIIパーペチュアルカレンダー アマデオ フルリエ 44 ヴィルトゥオーソVIIパーペチュアルカレンダー
    表裏の両面で同時刻を表示できるうえ、アマデオ コンバーチブル システムも採用されている。アマデオ フルリエ 44 ヴィルトゥオーソVIIパーペチュアルカレンダー 手巻き、ケース径43.3㎜ 、RGケース×アリゲーターストラップ、9,612,000円。
  • アマデオ フルリエ43 ムッシュ・ボヴェ アマデオ フルリエ43 ムッシュ・ボヴェ
    2時位置に文字盤を配し、6時位置にスモールセコンド、9時位置にパワーリザーブ表示を搭載。ダブルフェース仕様で、反対の面は全面文字盤仕様。表裏どちらの秒針も、時計回転するコーアクシャル・セコンド(特許取得済み)を採用。このモデルにもアマデオ コンバーチブルシステムが採用されており、ポケットウォッチやデスククロックに姿を変えて楽しめる。アマデオ フルリエ43 ムッシュ・ボヴェ 手巻き、ケース径43㎜、WGケース×アリゲーターストラップ、7,236,000円。
  • アマデオ フルリエ 44 ヴィルトゥオーソVIIパーペチュアルカレンダー
  • アマデオ フルリエ43 ムッシュ・ボヴェ

ハイエンドメゾンとしてのプライド

複雑機構はトラメランの地にある工房、ディミエ1738が担当する。また、ジュネーブ郊外にもボヴェ1822という、メゾンの名を冠したアトリエがあり、盤石の生産体制が整う。ラフィ氏は、ボヴェのタイムピースに対して「身に着けるアート」という言葉を用いる。素晴らしいアーカイブピースにインスパイアされ、伝統技法を惜しみなく投入した文字盤や外装と、妥協なく仕上げられた精緻なムーブメントが一体となったモデルは、芸術の領域に踏み込んだものと言っても過言ではない。

それに加えて、革新的なアプローチにも注力。腕時計をポケットウォッチやデスククロックに“変身”させる「アマデオ コンバーチブル システム」、ダブルフェースウォッチの両面で同時刻を表示する「リバースハンドフィッティング」、表裏の秒針が同じ秒を刻む「コーアクシャル・セコンド」などの特許取得技術も見逃せない。またピニンファリーナとのコラボモデルや、超複雑な天文時計シリーズ「グランド・リサイタル」などは、VIP顧客のニーズに応えるものだろう。年間生産数を約2000本に抑え、希少性も守るとともに、5年間の長期保証を始めアフターケアが万全であることも、ハイエンドメゾンとしてのプライドを感じさせる。

“身に着けるアート”、その言葉の意味を、ボヴェのタイムピースは余すことなく伝えてくれるだろう。

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