時代を読む――原田武夫 第21回

December 2, 2014
July 12, 2022 Last modified

ポスト・アベノミクスのリーダー像

時代を読む――原田武夫 第21回 ポスト・アベノミクスのリーダー像

先日、我が国を代表するバンカーの方にお会いする機会に恵まれた。せっかくの機会であるので単刀直入に「アベノミクスのこれからについてどう思いますか」と尋ねてみた。すると、有名バンカー氏はこう答えてくれた。

「先日、アメリカを代表するプライベート・エクイティの共同創業者が来ましてね。全く同じ質問をしたのでこう答えておきましたよ、『アベノミクスの3本目の矢は始まったばかり。いや、これからまさに始まるところです』と。とにかくマネーではなくて、実体経済を何とかしないとね……」

そう、全くもってそうなのである。正直、マネーは日銀による異次元緩和でメガバンクを筆頭に金融機関の金庫にうなるほどある。このバンカー氏の銀行も率直にいえば「1兆円ほどの余りガネ」ができてしまって困っているとのことだった。

しかし問題は、実体経済なのである。「これはすごい!」と思わず絶対に買いたくなるもの、投資したくなるものが我が国にはなく、むしろ「未来に対するそこはかとない不安」ばかりが漂っている。国内ではこれを解決しようと、規制改革の手綱を引き締めよといった声がまた出始めているが、今度はそれによって失われる既得利権を守ろうと必死になる勢力が現れる始末だ。そうした様子を見て、国外からは「日本は一体何をやりたいのか?」という疑問の声が、私の元にすら届くようになってしまっている。

こうした閉塞状況を打ち破るには、率直にいって、人心を一新するしかない。

簡単にいうと、アベノミクスは「ここまで」で、選手交代となるべきなのだ。思えば、かつて民主党政権を崩壊させた野田佳彦総理大臣(当時)がした「解散総選挙」という決断も同じ思慮からだったのではないのか。つまり「事業仕分けはここまで。ここからは、量的緩和を我が国でも行うから表舞台の役者たちを一気にかえる」ということなのだ。

その意味で今語られるべきは「アベノミクスをどうするか」ではなく、「ポスト・アベノミクス」であり、それを率いる新リーダーは誰なのか。それではこのポスト・アベノミクスで、取り組まれるべき事柄とは一体何なのだろうか。

「変わらなければならない。しかし変わることはできない」

そうつぶやきながら飽食を続け、惰眠をむさぼっているのが、私たち日本人の日常なのである。だが、そんな安逸の時も急に終わる。「変わらねば」と気づく時にはもう遅いのだ。時間切れとなる前に、私たち自身が「亀の子戦略」を打ち捨て、「脱皮=イノベーション」へと舵を切るようにするためには、どういったリーダーによる、いかなる舞台装置=政治が必要なのか。

私の答えはこうだ。――私たちが過去20年余にわたり、一切動こうとせず、「亀の子」を決め込んでいたのは、万が一失敗でもしたら大変だ、と思っていたからである。要するに「怖かった」のであり、そうである以上、必要なのはこれからを担うリーダーの口からこんな一言が絶えず出てくることなのである。

「こんな売り物ができたら面白い! やってみなはれ」

無論、何にでもトライを許すというわけではない。本当に「面白い!=すごい!」と思ったものだけにゴーサインを出すのだ。「やるならば全力でやれ」と資源を与え、全力で挑戦させる。そのためには「新しいこと」に対する審美眼がいる。当然、カネ勘定に関する冷徹な眼差しも、心の底では持っていなければならない。そして挑戦が成功したら、我がことのように喜ぶのである。それがますますチャレンジャーたちの心に火をつけ、好循環が始まる。

その意味で今、我が国では「企業家精神を持った政治リーダー」が求められている。どこぞの有識者を駆り出してきて、取り繕う政治家はいらないのだ。安心を与えることを裏打ちする冷徹な企業家精神の持ち主。それこそがポスト・アベノミクスを率いる我が国のリーダー像なのである。

原田武夫(はらだ・たけお)
元外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
情報リテラシー教育を多方面に展開。講演・執筆活動、企業研修などで活躍。
https://haradatakeo.com/

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