個人海外投資に必要な国際税務の基礎知識 第20回

May 9, 2022 Text 永峰 潤

同性婚と配偶者控除

はじめに

古くは『仮面の告白』を嚆矢としたLGBTに関する社会の認知度は世界的な流れの中でわが国でも急速に拡ひろがってきたように思います。

私の事務所でも若い職員ほどLGBTはごく普通のものとの認識であり、日本と世界の意識の違いもさることながら、世代間の意識の違いでもあることを実感させられます。

今回は私どもの事務所でも、時折コンサルの対象となる、同性婚の一方当事者の死亡に対して、相続税に対する相続税額の軽減、すなわち配偶者控除が適用できるかどうかについて考えてみます。

指輪と虹の旗

同性結婚とは

以下はウィキペディアからの情報です。

「同性結婚(same-sex marriage)とは、男性と男性、女性と女性が結婚することをいい同性婚とも呼ばれる。2001年4月1日にオランダで初めて同性婚が認められたことを契機に2021年現在、世界で同性婚が合法で認められている国は29カ国ある(欧米諸国、メキシコ、南アフリカ共和国、中華民国(台湾)などがあげられる)。

ちなみに同性結婚を憲法上禁止している国も33カ国ある。現在認められている国にも、かつては同性愛自体を犯罪化していたものもある。 

同性間の関係を法的に認めるには二つの方法があり、一つは法律上の定義をジェンダーレスにする方法で、『愛情や性的な親密さに基づいた男女の関係』から『愛情や性的な親密さに基づいた両当事者間の関係』と改める方法で、オランダはこの方法で法律上も同性同士の婚姻関係を異性同士の婚姻関係と同等とした。

もう一つは男女の婚姻とは別の制度として、異性結婚の夫婦に認められる権利の全部を同性カップルにも認め保証する法律(パートナーシップ法とよばれる)を作るもので、デンマークやノルウェー、スウェーデン等があげられる。パートナーシップ法とは同居、協力、扶助や生活財の共有・遺産相続権などの私法的な契約関係をパートナーにも認める法律をいう」

わが国の実情

ふたたびウィキペディアからの引用です。

「2021年現在、同性結婚を明示的に禁止する法律はないものの、民法や戸籍法の上では同性結婚の制度は設けられていない。ただし2015年4月に東京都渋谷区で同性パートナーシップ条例が施行された。この後、同性パートナーシップ条例は全国的に広がりを見せ2021年現在47自治体を数える。

司法でも2021年3月17日に札幌地裁が原告の請求を棄却するも、同性愛者に対して、婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないことは、法の下の平等を定めた憲法14条に違反するとの判断を下している」とありました。

なお、渋谷区の場合はLGBT向け住宅ローンサービスが受けられ、区営住宅などへの入居が認められるとあります。

配偶者控除

ここまでの背景事情のもと配偶者に対する相続税額の軽減について検討しましょう。

配偶者に対する相続税額の軽減とは、民法で配偶者相続人に定められている法定相続分に対応する部分について、相続税法で相続税の控除(免除/軽減)を認める制度です。例えば相続開始により被相続人に血族がおらず配偶者のみの場合、配偶者が相続した遺産全額は非課税となります。

結論的には同性婚者の一方当事者が死亡した場合、他方の当事者にこの制度が利用できる可能性は現行法制下ではないと思われます。税法の解釈実務では、税法で定義規定をしていない用語で他の法律分野で使われ既に意味内容も確立している用語を借用する場合、もともとの用語の意味内容と同様に使うべきというのが通説です(租税法律主義の法的安定性・予測可能性の担保といったりします)。

「配偶者」という用語はこの例に該当し、税法には配偶者の定義がされていないため民法の配偶者定義を借用しており、同法では配偶者は婚姻した者のみに対して用いられています。これを受けて税法でも配偶者は「婚姻の届出をしたものに限る」(※)としています。

そうなると次に婚姻はどこに規定されているかということになりますが、これは憲法24条で婚姻は異性間に限ると定義されています。

以上から結論的には、憲法で同性間には婚姻関係は認められない⇒民法で配偶者は婚姻にのみ生じるため、同性婚の相手方は配偶者に該当しない⇒相続税法では配偶者に限り配偶者に対する相続税額の軽減を認めているから、同性婚もしくはパートナーの相続によって生存している相手方には配偶者に対する相続税額の軽減は認められないと思われます。

同性婚等が認められる国で婚姻もしくはパートナーとなった一方当事者が、我が国相続税上の配偶者に対する相続税額の軽減を使えるかどうかについて、わが国法廷で争われた事例については知りませんが、相続税法上の解釈はわが国の法体系との整合性が問われるので、まずは民法等の改正を待つことになるでしょう。

本稿のまとめ

☑同性婚の場合には配偶者に対する相続税額の軽減は使えない

注釈(※)相続税法基本通達19の2-2

永峰 潤 ながみね・じゅん
東京大学卒業後、ウォートン・スクールMBA。
監査法人トーマツ、バンカーズ・トラスト銀行等を経て、現在は永峰・三島コンサルティング代表パートナー。

※『Nile’s NILE』2022年1月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

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